大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)2354号 判決

被告人 林一昭

〔抄 録〕

原判決挙示の証拠並びに証人梅田重夫、同佐野照の原審公判廷における各供述に、同証人らの当公判廷の供述及び被告人の当公判廷の供述を総合して検討すると、被告人は、昭和四八、九年ころ神奈川県警の警察官梅田重夫を知るようになり、同警察官から昭和五〇年六月末ころ覚せい剤事犯等の取締りのため情報提供方を依頼され、これに応じて自ら覚せい剤を買い受けて、同警察官に売主などの情報を提供し、同警察官の捜査に協力し売人及びその入手経路を報告していた事実のあったことは所論のとおりであるが、被告人は、右梅田重夫から右依頼を受ける以前の同年五月二四、五日ころ氏名不詳者から東京都新宿において覚せい剤三二万円分を買い受けて、その一部を二回にわたり自己の腕に注射するなどして使用して、その残部一〇・三五グラム(原判示第一の覚せい剤)を所持したり(被告人の昭和五〇年六月一四日検察官に対する供述調書)、太田節生ほか一名から原判示第二の一の大麻約六二三・八グラムを譲り受けるなどした(なお、原判示第二の一、二の各事件については、前記の如く被告人に情報提供の依頼をしていた関係から、梅田重夫の奔走があって在宅事件として起訴された)ばかりか、同年九月はじめころ同警察官に対し覚せい剤の大口の売人として長沼忠男の存在を報告し、「長沼忠男から借金のかたに取った」といって、そのころ同人から最初に買い受けた約二〇〇グラムのうちの約一〇〇グラムの覚せい剤を見せたところ、同警察官はさらに長沼の密輸先を突きとめ、密輸の現場で同人を逮捕したいとのことであったので被告人はその後も長沼との取引関係を維持するため同年一〇月六日ころ覚せい剤約一〇〇グラム(原判示第三の覚せい剤は、その一部)を購入し、そのころ被告人と覚せい剤の取引のあった佐野照から同月二日ころ覚せい剤約一〇〇グラム(原判示第三の覚せい剤は、その一部)をそれぞれ譲り受けて、他にこれらを売りさばいて利益を得たり、同年一〇月八、九日ころ佐野から原判示第三の覚せい剤原料二・九九キログラムを預って所持するなどして、多量の覚せい剤や大麻などを取り扱っていたこと、原判示の覚せい剤等の所持等につき同警察官に何ら報告していないことが認められるのである。なるほど本件覚せい剤、特に、原判示第三のそれがいわゆる捜査協力、すなわち、長沼忠男との取引を継続し、同人の逮捕を導くためになされた事情は認められないではなく、又梅田重夫が被告人から当初長沼から購入した前記覚せい剤を見せられた際、適切な方法を講じておいたならば、あるいは原判示第三の犯行は防止し得たかも知れないのであるが、被告人の捜査協力というのはあくまで前記のとおりであって、本件所為自体直接に捜査官に指示されたものでないのは勿論、被告人は本件覚せい剤を購入のつど梅田重夫に報告した事実のないことは前記のとおりであり、また現物を同人に引渡したものでもないのであって、被告人の本件所為は明らかに捜査協力の範囲を超え、違法な行為と断ずべきであり、このことは梅田重夫の無責任な捜査協力依頼とは別に論ぜられるべきことがらである。そして、被告人自身検察官に対し大麻や覚せい剤を取扱って悪いことは十分知って手を出したもので、弁解のしようもない旨述べているところであるばかりか、被告人の捜査協力の意図の故に直ちに右各所為の違法性ないし故意が阻却されるものでないことは最高裁判所第一小法廷・昭和二八年三月五日決定・最刑集七―三―四八二に徴しても明らかである。

以上の次第で原判決には所論のような憲法違反ないし法令適用の誤り及び審理不尽のかしは存しない。所論は、独自の見解に立って原判決を非難するもので、到底採用することができない。≪中略≫

所論は、被告人に対する原判決の量刑が不当に重い、というのである。

そこで、記録並びに原裁判所が取調べた証拠を調査し、当審における事実の取調べの結果を参しゃくして検討すると、本件は、被告人が、二回にわたり原判示第一及び第三の覚せい剤合計約一〇六・八一五グラムを所持し、太田節生ほか一名から原判示第二の一の大麻約六二三・八グラムを代金三〇万円で譲り受けたほか、同人らに対し原判示第二の二の覚せい剤約二グラムを代金一五万円で譲り渡し、原判示第三の覚せい剤原料約二・九九キログラムを所持した事案であるところ、被告人は、これまでに多数回にわたり懲役刑等に処せられた前科があるほか、昭和四七年八月一六日覚せい剤取締法違反罪により懲役六月、四年間刑の執行猶予に処せられたにもかかわらず、右刑の執行猶予期間中またもや本件各犯行を犯したばかりか、原判示第二の一、二、第三の各犯行は、原判示第一の事件の保釈中にいずれも犯されたものであること、本件覚せい剤等の取扱量が極めて多量であること、などを考慮すると、犯情は悪質であって、被告人の刑責は、これを軽視することを許さない。しかしながら、被告人は、前記のように、警察官の覚せい剤事犯等の取締りのために、無報酬で情報を収集提供して警察官の捜査に協力したこと、前記のように、一〇〇グラムの覚せい剤を示されて情報を提供された警察官が、直ちに長沼を逮捕していたならば、あるいは、原判示第三の犯行を犯さずにすんだと認められないではないこと、被告人が本件を犯すについては捜査官憲の無責任な協力依頼がその一因をなしていること、その他被告人の年齢・境遇等所論が指摘する被告人にとって量刑上有利な又は同情すべきすべての情状を十分しんしゃくすると、被告人に対する原判決の量刑は、その刑期においてやや重いと認められる。論旨は理由がある。

(谷口 金子 小林)

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